君と私を、夜空から三日月が見てる
☆
エテルノグループが経営するこの巨大ショッピングモールは、大きく分けて、二つのセクションがある。
エテルノ本社が直営する、エテルノゾーン。
そして、200店舗近くのテナントを有したモールゾーン。
エテルノ直営ゾーンは、食品売り場衣料品売り場デジタル家電売り場になってて、モールゾーンには飲食店からペットショップからドラックストア、洋服屋さんから旅行代理店、携帯電話会社その他色々、それこそ多種多様なテナント店が混在してる。
私は、エテルノ直営ゾーンの事務局に勤務してたから、モールゾーンの内情というのは全然わからない。
それに、モールゾーンにはまた別の事務局があるから、私たちエテルノ直営の社員はほとんどモールゾーンには感知しないのです。
清掃部門と設備部門は、両ゾーンとも共通なんだけどね。
今、私の目の前にいる、この柿坂 海里(かきさか かいり)君は、22歳なんていう若さでありながら、エテルノ直営ゾーンの清掃責任者であり、責任者ということは、今日から彼が、私の上司ということになる訳なのです。
私が積み上げてきた事務局でのキャリアは、私自身がうかつに放ったたった一言で、もろくも全て崩れてしまった・・・
そして、飛ばされた先が、まさか・・・
掃き溜めと呼ばれるこの清掃部門だったなんて・・・
柿坂君の背中を追いかけながら、失ってしまったキャリアに思いを馳せて、私は、また大きなため息をついてしまう。
すると、そのため息を聞きつけた柿坂君が、売り場に続くスウィングドアを押し開けながら、おかしそうに言ったのだ。
「そんな暗い顔してため息ばっかり吐いてるとさ、恐怖の『お客様の声』に書かれるよ?
清掃の長谷川さんはやる気がない!って」
「え?!なにそれ?!」
「怖いよ?『お客様の声』?
清掃のことなんか、一般の客が見てる訳ないなんて思うと、忘れた頃にどーんってやられる。
一般のお客さんってさ、見てないようでちゃんと見てるんだよ。
だから、顔だけでも笑っておかないと。
長谷川さん、おねーさんっしょ?」
「確かに、柿坂君からしてみたら、おねーさんではあるけど!
そもそも私は売り場なんて出たことないし!!」
「これから売り場で勤務するんだから、もうそれは通じないよ?
今日からはさ、清掃が長谷川さんの仕事なんだからさ」
何気なく言われたその言葉が、どすんって私の心に刺さった。
そう・・・
そうなの・・・
その通りなの・・・
いくら納得できなくても、与えられた仕事は、今日から清掃業務なの・・・
そうなんだよね・・・
私は、まじまじと、柿坂君の綺麗な顔を見つめてしまった。
素直に思った。
この子、若いくせに大人だなって・・・
「情けないな~・・・私。
なによ・・・柿坂君のほうが、しっかりしてるじゃない・・・
6才も年下なのに・・・!」
「えー?
仕事に歳とか関係ないっしょ?
それに、今日からは、俺が長谷川さんの上司なんで!
ちゃんと仕事してもらわないと!」
そう言って、柿坂くんは、なんだかちょっと意地悪な顔つきをしながらもにっこりと笑う。
「くーっ・・・・!」
悔しいけど、何も言い返せなかった。
若いくせに、この子、悔しいほどしっかりしてる。
こんな子だから、たった22歳で、『責任者』ができるんだろうね・・・
悔しいけど、認めるしかない。
6才も年下のこの人が、私の上司だって。
エテルノグループが経営するこの巨大ショッピングモールは、大きく分けて、二つのセクションがある。
エテルノ本社が直営する、エテルノゾーン。
そして、200店舗近くのテナントを有したモールゾーン。
エテルノ直営ゾーンは、食品売り場衣料品売り場デジタル家電売り場になってて、モールゾーンには飲食店からペットショップからドラックストア、洋服屋さんから旅行代理店、携帯電話会社その他色々、それこそ多種多様なテナント店が混在してる。
私は、エテルノ直営ゾーンの事務局に勤務してたから、モールゾーンの内情というのは全然わからない。
それに、モールゾーンにはまた別の事務局があるから、私たちエテルノ直営の社員はほとんどモールゾーンには感知しないのです。
清掃部門と設備部門は、両ゾーンとも共通なんだけどね。
今、私の目の前にいる、この柿坂 海里(かきさか かいり)君は、22歳なんていう若さでありながら、エテルノ直営ゾーンの清掃責任者であり、責任者ということは、今日から彼が、私の上司ということになる訳なのです。
私が積み上げてきた事務局でのキャリアは、私自身がうかつに放ったたった一言で、もろくも全て崩れてしまった・・・
そして、飛ばされた先が、まさか・・・
掃き溜めと呼ばれるこの清掃部門だったなんて・・・
柿坂君の背中を追いかけながら、失ってしまったキャリアに思いを馳せて、私は、また大きなため息をついてしまう。
すると、そのため息を聞きつけた柿坂君が、売り場に続くスウィングドアを押し開けながら、おかしそうに言ったのだ。
「そんな暗い顔してため息ばっかり吐いてるとさ、恐怖の『お客様の声』に書かれるよ?
清掃の長谷川さんはやる気がない!って」
「え?!なにそれ?!」
「怖いよ?『お客様の声』?
清掃のことなんか、一般の客が見てる訳ないなんて思うと、忘れた頃にどーんってやられる。
一般のお客さんってさ、見てないようでちゃんと見てるんだよ。
だから、顔だけでも笑っておかないと。
長谷川さん、おねーさんっしょ?」
「確かに、柿坂君からしてみたら、おねーさんではあるけど!
そもそも私は売り場なんて出たことないし!!」
「これから売り場で勤務するんだから、もうそれは通じないよ?
今日からはさ、清掃が長谷川さんの仕事なんだからさ」
何気なく言われたその言葉が、どすんって私の心に刺さった。
そう・・・
そうなの・・・
その通りなの・・・
いくら納得できなくても、与えられた仕事は、今日から清掃業務なの・・・
そうなんだよね・・・
私は、まじまじと、柿坂君の綺麗な顔を見つめてしまった。
素直に思った。
この子、若いくせに大人だなって・・・
「情けないな~・・・私。
なによ・・・柿坂君のほうが、しっかりしてるじゃない・・・
6才も年下なのに・・・!」
「えー?
仕事に歳とか関係ないっしょ?
それに、今日からは、俺が長谷川さんの上司なんで!
ちゃんと仕事してもらわないと!」
そう言って、柿坂くんは、なんだかちょっと意地悪な顔つきをしながらもにっこりと笑う。
「くーっ・・・・!」
悔しいけど、何も言い返せなかった。
若いくせに、この子、悔しいほどしっかりしてる。
こんな子だから、たった22歳で、『責任者』ができるんだろうね・・・
悔しいけど、認めるしかない。
6才も年下のこの人が、私の上司だって。