ファンレター
駅からの帰り道。
一緒に帰ってるなんて思われないように、お互い道路の反対側を歩いた。
私は有名人になった十のために。
十は他人のフリをしてほしいと頼んだ私のために。
「オレ、東京に行くことになるかもしれない」
道の向こう側から、真っ直ぐに前を見たままの十が言う。
「東京って雑誌の撮影のため?」
私も同じように、十の方を見ないまま会話を続けた。
「うん、でも雑誌だけじゃなくて、他にもいい話もらえてるんだ。だから、あっちでの活動が多くなりそうだし、東京に住んだ方が楽かなって」
「ふぅん…。偉くなったもんだね」
皮肉みたいなことしか言えないけど、内心すごいとは思ってた。
ひとつのきっかけで、こんなにチャンスが巡ってくるものなんだ。
なんだか、十ばかり光ってる。
それなのに私は、彼氏を作ることもできずに、毎日平凡な高校生活を送ってて。
どんどん私を追いかけていた十に、引き離される思いだった。