ファンレター
私もこっそりその場を抜けて、スタジオ隣の廊下に出ると奥の方へと進んでみた。
多美はどこに行ったのか。
階段のあるところに出ると、上から降りてくる足音が聞こえてきた。
…多美?
「あら。迷ったの?」
見上げると、そこにいたのは上品なおばさん。
えっと……あ、布施原さんだ。
布施原は、たぶん四十代後半くらいだと思うけど、よく見れば顔立ちがキレイで、芸能人ぽいオーラが漂ってた。
うん、存在感があるて感じ。
「…すみません、友達とはぐれて」
「そう。トイレはもう少し向こうだけど、そっちは探してみた?」
「いえ、まだです。行ってみます」
多美が変なことをしないうちに、見つけておかないと。
私はそんな思いで、さらに奥へと進もうとした。
すると
「ねぇ…、駅前にはまだ、桜の木があるのかしら」
布施原さんの声が、私を引き止めた。