ファンレター



細い廊下に静かな空気が流れる。

布施原さんも同じ高校出身なんだから、桜の木のことを知ってたからって不思議でもないんだけど。

なんだかちょっと、胸がふわふわした。



きっと、桜の話をされたせいだ。



「はい。……長い間、街には帰っていないんですか」


「……ええ、もうずっと。あの桜も見ていないわ」



少し遠くを見るような瞳に、どことなく自分と近いものを感じる。



「……別れ桜、って言うらしいですね」



思わず出た言葉。

私の中でも、やっぱり忘れることができなかったんだと思う。

ずっと心に残ってた、どうしても気になる呼び名を。



布施原さんが静かに私を見つめた。

私もなんとなく、視線をそらせなくて。



役者の力なのか。

その瞳にどんどん吸い寄せられると、感情が同調するような……



気が付けば私の目からは、涙がこぼれてた。





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