ファンレター
「あれ、なんで涙が…」
自分でも驚いて、私はオロオロと焦ってしまった。
そんな私に、布施原さんがハンカチを差し出す。
「大丈夫よ…」
どういう意味があったのかわからないけど、私と十のことを何も知らない布施原さんに言われたその言葉に、なんだかすごく安心させられた。
落ち着きを取り戻して、布施原さんが貸してくれたハンカチを返すと、私は自分のハンカチを取り出そうとポケットに手を入れる。
するとハンカチと一緒に、コツンとリップが転がり落ちた。
意味のなかった、色付きリップだ。
慌てて拾う私の後ろからは、勢いのいい多美の声。
「涼!十くん情報ゲットだよ!今夜会えるかも!あっ…」
「多美…」
布施原さんの姿を見て、多美は驚きながら口に手を当てた。
「お友達、見つかってよかったわ」
布施原さんは、ただニッコリと笑ってる。
そしてそこへ、さっきのカメラマンもやって来る。
「あ、ここにいたのか。もうみんな集合してるよ。君たちがいないって、探してたんだ」
ホッとしたように微笑むカメラマン。
どうやら放送局の見学は終わりみたい。
「ねぇ、多美。この人があのCM撮ったんだって」
しばらく抜けてた多美にさっきの話を教えると、多美はまた驚いた顔ですごいことを口走った。
「え!じゃあ涼があの時、電話でしゃべったカメラマンてこと!?……あ、また余計なこと言っちゃった!」