ファンレター
「大北さん……て言うんですか?」
カメラマンのメモにあった名前。
あの人の名前じゃなかったのか。
じゃあ、この人は…?
「君、名前は?」
「えっ…」
うっ……
ど、どうしよう。
学校に連絡するつもりかもしれない。
こんな時間に、ウロウロしてるなんてやっぱりまずかった。
あまりに突然過ぎて、嘘の名前も出てこないし。
顔が光に当たることを拒んで、視線で地面を這いながら逃れられるセリフを考えるたけど。
そんなに都合のいい言い訳は出てこない。
「あ、あの、あの……」
震える手の中のメモ紙が、どんどん小さくなって、十の顔と山口の顔が交互に浮かんだ。
もうダメ。
強制帰還、確実だ。
「もしかして…、羽田涼さんじゃない?」
「は?……はい」
つい、返事をしてしまった。
でも、私の名前呼んだし…
……どうして?
大北さんらしき人が、私に手を差し伸べる。
「こっちへおいで」