ファンレター
「まずいよ…」
慌てて十から離れると、一つ向こうの交差点で若い女の子達の声がした。
「あれ、十くんじゃない?やっぱり家ここら辺なんだ!」
あっという間に、私達の前に到着した三人の他校生。
「え…もしかして彼女とかじゃないでしょ?」
「やーん!うそー」
十の周りで悶える三人。
「あの……」
私が何か言おうとすると、十はとっさに声を遮った。
「偶然会ったクラスメイトだよ。羽田さん、また明日。気をつけて帰ってね」
にこやかに手を振る十。
「やっぱり十くんて誰にでも優しいんだぁ」
「ねぇねぇ、十くんとプリクラ撮りたーい」
十が私に目で合図して、私はその場を去った。
街頭の明かりが続く夜の道。
体全体にずっと残る十の感触。
足が震えて、まっすぐ歩くことも困難だった。