ファンレター
隣を見ると、十もこっちを見てた。
いきなり近距離で目が合ってしまって、さっきのように顔を元に戻せない。
やばいくらい胸が震えて
もしかして、服の上から見えてしまうんじゃないかって心配になるくらい…
……それくらい、十が好き。
冷たい風が吹いて
見つめあう時間が、長くて息が苦しい。
…どうする?
どう伝えたらいい?
時間ばかりが、どんどん過ぎてくみたい。
「そういう格好すると、それなりに色っぽく見えるもんだな。気のつよーい羽田さんでも」
あらためて私の服装を眺めて、十が呟いた。
ドクンドクン、ドクンドクン…
「うっ、うるさい!」
もう、こんな時に。
そんなことら言われたら、また意識して緊張してきちゃうじゃん。
この気持ちをどうやって誤魔化せばいいかわからなくなって、私は昔のように久しぶりに十の頰をつねった。
照れ隠しだけど、それは一層緊張する空間を作ってしまう。
十の顔に触れた私の手に、ゆっくり十が触れてきて。
ドクンドクン、ドクンドクン…
何か、言わなきゃ。
苦し紛れに言葉を探した。
何か話題を振らなきゃ、心臓が壊れるっ
「…それで?修学旅行はどうなの?楽しんでる?」
結局、また十の方から話を振ってもらってしまった。
その言葉にまぎれて、私は十の顔から手を離す。
同時に、十の手からも離れた。
どうしよう、この気持ち。
この時間、この空間。
そうだ、私も何かいい話をしないと。
旅行のことなら、山ほど話があるの。