ファンレター
「ばかみたいって言われそうだから、やっぱり言わない」
「なにそれ!言ってよ!」
距離が離れるにつれて、コンクリートにぶつかる声がこだまする。
くだらない会話に、ワクワクしてた。
ただこうしていることが懐かしくて、おかしなくらい楽しい。
「…もうバイバイしよ。10時半過ぎちゃったぞ」
二人の間に、電柱が二本並んだ。
お互いの表情は、もう微かにしかわからない。
「ねぇ、どうして水色が好きなの?」
これ以上離れると、多分会話はもう無理そうだ。
私は足を止めた。
「…だから、ただ…なんとなく、涼って字のイメージがオレの中で水色だったから。……ばかみたいって、思っただろ」
どんな顔して、言ったんだろう。
この距離がちょっと残念。
「ばっかみたい!これもらっとくねっ」
私は右手でメガネを高く掲げて、それから大きく手を振った。
十なんて、ジャンプしながら振ってた。
失礼ながら「ばか」って言葉が本当によく似合う。