ファンレター
それから二ヵ月たった頃、十は東京へ引っ越すことになった。
うちの父親が大きな布に『必勝!』とか訳のわからないことを書いて見送る。
それを十の両親も、うれしはずかしで見ながら微笑んでた。
私たち親しい人間は、駅までは見送らないことにした。
きっと情報を聞きつけた地元のファンが、あの桜の木の元に何人も集まってるだろうから。
「がんばってね」
誰にでも言えるような一言を添えて、私は十に手紙を渡した。
大したことは書いてない。
ただ、どんな事も頑張ってやり遂げてほしいって事と、ずっと応援してるって事。
それから、きつく当たってきた事を謝っただけ。
考えてみたらちょっとずるい気もするけど、十の中に残る私の印象を、少しでも良くしておきたかったんだ。
そしてこれが私から十への、一番最初のファンレターになった。