ファンレター
目覚めの悪い朝。
大きな不安が、嫌な夢をくり返し見せてくる。
修学旅行から一週間。
あの日のキスは、私に信じられないくらいの幸福感を与えてくれた。
今でも容易く、感触をよみがえらせることができるくらいに。
でも、確実なものが残ったわけじゃなかった。
十は変わらず遠い場所にいて、私にはファンレターしか連絡の手段がない。
気持ちは伝えることができたから、それなりにすっきりはしたけど
その分、寂しさが余計に膨らむような気もする。
十も私を好きだと言ってくれたけど
それでも、不安は消えなくて。
濱田サキとのことも、事実はわからないままだった。
「涼、今日帰りに家に寄ってほしいって、鷹宮の奥さんが言ってたわよ」
母がトーストとバターを差し出す。
「ふーん、なんだろう」
「おまえ、十ちゃんの芸能活動を邪魔するようなことしたんじゃないのか?」
父はちらっと新聞から目を出し、再びサッと身を隠した。
……否定はできない。
「まぁ、お父さんは全然かまわんぞ。十ちゃんだって、涼のためなら芸能界なんて捨てられるはずだからな」
あんたが言うな。
それに、捨ててほしいなんて思ってない。
十が頑張って活躍するのは、やっぱりうれしいから。
ただ、もう少し近くにいられたらって、そう思うだけで。
距離的にも、気持ち的にも…。