ファンレター
「おじさん、布施原……布施原由起子さんて知ってる?」
「ん?…あぁ、知ってるよ。こっちが地元の女優だ。…どうかしたのかい?」
「ううん。東京でその人に会ったから」
「ほぉ、そうかい。それはすごい。…で、どうだった?元気そうだったか?」
「うん、やっぱり女優って感じで元気…、ん?いや、キレイだった…。おじさん知り合いなの?」
懐かしそうな話し方が、なんだか気になった。
おじさんは、慌ててゴミ箱に落ち葉を投げ捨てる。
隠し事を捨てるみたいに、とてもぎこちなく…。
「涼ちゃん、時間!」
「あっ、やばい!遅刻しちゃう。おじさん、また帰りにね」
走りながら考えた。
もしかして、おじさんの娘?
いや、おじさんとは名字が違うか。
あ、芸名だからかな。
それに、布施原さんが桜の木を気にしてたのも、それなら納得できるし。
本当に親子だったとして、それだとちょっとびっくりだ。
それより今は時間にびっくりだ!
また山口に捕まってしまう。
秋空とはいえ、走ればこの服装はまだ暑かった。