ファンレター
久しぶりの生徒指導室。
あの雨の日以来だ。
スリッパ履きをした足音の後に、静かに扉が開く。
山口にいつもの勢いはない。
隣には、担任の姿。
もしかして、修学旅行時の脱走がバレたのかな。
「あのね羽田さん。朝早くから怪しい人が、学校の周りで生徒達に声を掛けてるらしいんだけど、
どうもそれが、あなたのことを尋ねてるらしいのよ。身に覚えはある?」
私を?
十とのことを嗅ぎ付けた記者か。
あの夜のことを、見られてたとか…!
それならまずい。
私とのことを記事にされちゃったら、その先は目に見えてる。
何としても、止めないと。
「その人、どの辺りにいたんですか?」
頼んで了解してくれるとも思えないけど、なんとか話だけでもしてみる方がいいかもしれない。
お金を要求されることも有りうる。
「落ち着け羽田。心配しなくても、俺たち教師が守ってやるからな!帰りは家まで送るから」
「そうよ。変質者になんて手は出させないからね」
いや…
多分変質者などでは、ないと思うんですけど…
むしろ会わせてもらいたいし、帰りは寄る所がある。
「大丈夫だ。俺はこう見えても、力だけには自信がある。安心しろ」
「あ…はい。ありがとうございます」
言えない。
この誇りと自信に満ちあふれる巨体に、あんたの存在が邪魔だとは…