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遠い存在
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遠い存在
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あれから、駅前の本屋に立ち寄ることは、私の日課になってた。
ここは私鉄の駅と大きな駅が隣り合う場所で、私と十は家から私鉄に乗ってこの場所に着き、ここから学校まで歩いて通ってた。
そして十は、あの日ここから東京へと旅立って行ったのだ。
十の輝ける未来への道と、私の平凡な毎日の真ん中に、この本屋と桜の木があるというわけだ。
今日も大きな木が風に揺れてる。
「おい涼ちゃん、寒いからドアを閉めてくれるかい」
本屋のおじさんともすっかり仲良し。
「あ、ごめんね。思わず立ち読みしちゃった」
「いやいや、それは構わんが風邪をひくと大変だから。それより、今月あの子は載っていたかい?」
「ううん。まだそんなに売れていないし、たびたび出て来たりしないよ」
急いで雑誌をラックに戻す。
十の記事が載ってない月はつまらなかった。
懸賞の発表を見るように、毎回ドキドキして雑誌を開いてた私。
たまにコメントを掲載されてたりするけど、滅多に大きくは出て来なくて。
順調に活動できてるのか、どんな風に過ごしてるのか。
連絡が来るわけでもなく、ただ一方的に心配する毎日だった。