ファンレター
ただの、ファンとして…
水面がキラキラ光ると、誘われるようにススキが揺れる。
誰も特別抜き出てなんていない。
ファンは誰一人違わず
みんな一番のファンだ。
私はまた、他の人と変わらないラインに立つ。
「…ひとつだけ、どうしても気になるので教えてください。無理かもしれないけど…。濱田サキさんのことって、本当ですか」
結局、最後まで気になって仕方なかったこと。
大人の背中にオレンジ色の光を背負って、尾根さんは振り返った。
「道具です。大きく育てるためには、いろんな道具が必要なのです。自分が一番大切とするものは何か、それを見失ってはいけません」
この時は、これがどういう意味かは理解出来なかった。
ただ、十と濱田サキはそういう関係ではないのだろうと予想できたことで、私の中には少しの安堵感が戻った。
目を閉じれば、流れが聞こえる。
水と時間と風の流れだ。
変わらない中で、変わって行くことがある。
それに置いて行かれないようにすることだけで、今の私は精一杯だった。