ファンレター
玄関のベルを鳴らす頃には、すっかり日が沈んで。
小さな街頭には、光が灯った。
鷹宮家にも、明かりが入る。
「すみません、遅くなっちゃいました」
相変わらず控えめな態度で出迎えてくれた鷹宮の母は、私を中へと誘った。
そういえば、尾根さんは鷹宮の家に寄ったのだろうか。
居間に入ってソファに座ると、鷹宮の母は深刻な顔で何かを差し出してきた。
「これ、受け取ってもらえるかしら」
テーブルから開かれた手の平の下には、水色の携帯電話。
「これ、なんですか?」
「この携帯の番号は十も知ってるから。これからあの子と連絡をする時に、涼ちゃんが使ってちょうだい」
「えっ、私が?…でも」
「これは私の希望なの。お願い、あの子の力になってあげてほしいから」
「……」
力になれるか、邪魔者になるか。
そこの判断がむずかしい。
でも、私にもわかることがある。
これを、受け取るべきじゃない。