ファンレター




震える腕で、おじさんは私に雑誌を託した。

紙のにおいが、時空を飛び越えるように感じる。



「長い間引きずって来た。なぜあの時、自分は何もしなかったのだろうと。……自信がなかったんだ。他の人間のせいじゃない。自分の気持ちが弱かった。だから何も言えなかった。できなかった。彼女が自分の身を削ってやったことにさえも、応えられなかったんだ。

情けない。彼女が人々の前から姿を消した時、心配で眠ることもできなかった。彼女に何かあれば、それは自分のせいだと、やりきれない日々が続いた。

再びテレビで彼女を見た時は、安心と同時に悲しみがよみがえったよ。この木の下で約束したことを守れなかったばかりか、あんなに眩しかった笑顔を、自分のせいで惨めな女優に変えてしまった。

……全て自分一人で決めてしまった結果だ。信じるだけで違っていたかもしれないのに、それをしようとしなかった。彼女との連絡を断つことが、彼女のためだと勝手に判断したんだ。

後悔しても取り戻せない時間がある。わたしは彼女の全盛期を無駄にしたんだ」





< 162 / 218 >

この作品をシェア

pagetop