ファンレター
葉が落ちる。
流れる涙と共に、とてもとても優しく。
風は時間を止めて、おじさんの肩にぬくもりを与えた。
「おじさん…、私は十をずっと邪魔だと思ってたの。近くにいてほしくなくて、誰にも幼なじみだなんて知られたくなかった。でも…、ずるいかもしれないけど、今は十の近くにいたいと思ってる。私の側にいてほしいって。今度は私が、十の邪魔になるかもしれないのに。
勝手でしょ。でも、よくわからないけど、相手のためにって思う前に、自分の気持ちに嘘をつくことは違うんじゃないかって思ったの。もし相手が自分を選んでくれなかったとしても、自分の気持ちを消してしまうのは嫌だから。
ファンレターに綴った言葉は嘘なんかじゃない。例えばそこに、自分の想いを残しておけたら、それまでの毎日に無駄なんてなかったって、自信を持てるかもしれないから。
伝えたいことは、どんなに些細なことでも必要じゃなかったものなんてひとつもないの。感じたこと全部が、二人がいることで生まれたものだから。十がいるから、この気持ちがある。それだけは、忘れたくない」
月がずいぶん傾いた。
低い音を立てながら、最終列車がゆっくりと駅に入る。
落ち葉を回転させた秋の風は、凛とした身体をエントランスへと引き込んだ。
「桜の木の歴史を、変えてほしい」
手の平にのせられた、ほのかに緑色の桜の葉。
私はそれを雑誌にはさんで、光が落ちかかる駅のホームへと走っていった。