ファンレター
私が腕の中の雑誌をグッと抱えると、まもなく列車の光が見えてきた。
考えもせずにここへ来たけど、私に何ができるんだろう。
早く十の近くに…
そんな気持ちと、行ってどうするんだという消極的な感情が入り交じって、自分でもよくわからなかった。
ただ、動かずにはいられなくて。
何かを求めるように、思いのまま行動するしかなくて。
「姉ちゃん、顔見せろって言ってんだろぉ」
引きずるような足音が、背後から近付いて来た。
さっきの酔っ払いおじさん。
電車が到着しても、扉が開くまでの時間が怖いくらい長い。
「一人なんだろぉ~?かわいがってやるからさぁ」
早く、早く!
扉が開いたら、すぐに奥の車両へ逃げよう。
こういう時の他人は意外と冷たい。
いや、他のサラリーマン達の目まで、いやらしく見えてくる。
「つかまえるぞぉ~」
早くっ…!
次の瞬間、扉が開いた。
えっ!?
後ろから誰かに背中を押されて、そのまま奥へと流される。
なに…?
「一人じゃないので。失礼っ!」
酔っ払いに言い放ったその声は…
「多美!」