ファンレター



一番前の車両まで来ると、人も疎らで。

私と多美は、静かな時間を獲得できたようだった。

傍らには大きなバッグ。



「涼の母様から電話もらってさ、涼は来てないかって。そしたら口から「来てます。今日はうちに泊まります」って思わず出ちゃったのよね。不思議でしょー?なんとなく、涼は東京に行くな、って感じたの。それで、これは絶対一緒に行かなきゃって思って駅に来たら、まるっきりビンゴじゃん。私までビックリよ。
ところで、どういう経緯なのか説明してよね。涼ってば、最近行動的だから、私も全く把握できてないんだもん」


「多美…」



やっぱり、多美の力はすごいな。

モヤモヤが一気に吹き飛ぶって、こういうことを言うんだと思う。

さっきまでの不安が、うそみたいに消え去った。

変わらないテンポで話す多美に、しばらく唖然としてしまったけど、私の中には貴重な支えができた。



「多美はすごいよ」


「は?なによそれ」



列車は闇を恐れず、私を十の街へと運び始めた。





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