ファンレター
グラスに注がれた液体を、真剣な表情で覗き込む。
私と多美が顔を見合わせると、桂さんが笑いをこらえながら言った。
「大丈夫だよ、お酒じゃなくて紅茶だから」
ちょっと変わった色に、強いハーブの香り。
なんとなく大人っぽい。
扉の向こうからは、相変わらず低音の音楽が聞こえて来る。
大北さんは店に戻ったけど、桂さんは私達に気を使ってか、しばらく話相手をしてくれてた。
折り返した袖口が、大人の男の人を感じさせて。
時刻も手伝ってか、少しドキドキする。
「それにしても驚いたなぁ。こんなにすぐ再会しちゃうなんて。もちろん十に会いに来たんだよね」
桂さんの言葉に、多美はグラスを両手で包みながら私に視線を向けた。
私はただ、グラスの奥に視線をしずめる。
「あっれ…?なんだか妙に気持ちどこかへ行ってる気がするんだけど。何かあった?」
優しい桂さんには、つい甘えたくなってしまう。
尾根さんの事…、言っちゃおうかな。
布施原さんの事とかも、何か知ってるかも。
ううん、肝心な十と濱田サキのことだって…
聞きたいことは、溢れるほどにあった。
ただ、何から話せばいいのか、どう説明していいのか
うまく伝える自信がなくて。
「なんでもないです。ちょっと緊張しちゃって」
「おいおい、今更じゃん。もうオレ達友達なんだからさ」