ファンレター
制服に着替えた私は、店の横につけられた桂さんの車に多美と二人で乗り込んだ。
大北さんが、運転席の桂さんに何かを耳打ちして、肩にポンと手をやる。
「ありがとうございます」
桂さんは大北さんに、深々と頭を下げた。
窓からの風が、思ったより清清しかった。
多美は助手席に座って、観光気分で桂さんに都会の話を聞いてる。
道路が上へ下へと行き交い、やがて視界が明るくなる場所まで出てきた。
東京は、どこへ行ってもビルが並んでるのだと思ってた。
店も学校も、なんでもがグレーのコンクリートで包まれてるんだろうって。
でも十の通う高校は、静かな住宅街に広い敷地で建てられた、茶色の上品なものだった。
「ここで待とうか」
紅葉樹の並木道に、桂さんの車は静かに止まった。
風で舞う落ち葉の音が、ずっと聞こえてる。
そしてぼんやりと思い出した。
おじさん、大丈夫かな。