ファンレター
「あ、十くん」
多美の声に、私は顔を上げた。
友達であろう男子生徒達と出てきた十は、風に流れる髪の間から、優しそうに笑う瞳を覗かせて。
濃いグレーのブレザーに、身を包んでた。
十…
私は無意識のままドアを開けた。
「ちょっと待って」
桂さんの制止で我に返る。
「あ、そうか。尾根さんとの約束の事…」
「違うよ、そうじゃない。…やっぱり」
桂さんの見る方向からは、一台の車が近付いてきてた。
それは十達の前に静かに止まって、十が運転席に近付いていく。
「すっげー、濱田サキじゃん」
十の友達が、大声を上げた。