ファンレター
「行こう」
キーが唸るような勢いで、桂さんは車のエンジンをかけた。
ハンドルは無謀な早さで回転させられて、タイヤが悲鳴をあげる。
多美がドアに押し付けられた時、私は正気に戻った。
慌ててシートにつかまる。
「もしかして追い掛けるんですかぁ」
多美はハンドルを握る桂さんの腕を、どさくさ紛れでつかんでた。
追うのは私達だけじゃない。
当然、記者の車も後に続いた。
「どこまで追い掛けるんですか」
あまりショックを受けるような場面は見たくなかった。
このまま十は仕事へ向かったんだと思って、引き返すのもいいかもしれないと、どこか弱気になってた。
「わからない。でも、全てあいつが仕組んでることに間違いはないから、このまま追うよ」
あいつ…
尾根さん?
全てって?
「あいつって尾根さんの事ですか?記者の人達も、尾根さんが呼んだって事?」
「そういうことになるね」
どうして?
だって、マネージャーはタレントを守るものだって…。
「書く、書かれる。対するような立場に思えるけど、芸能界とマスコミ界は案外つながってるものなんだ。書かせてもらう、書いてもらう。そういう取り引きだってあるんだよ」