ファンレター




「羽田さん…」



座り込んだ肩に触れる声。

振り返りながら、流れる想い。



「十、私……。ごめん、いつも勝手で」


「もう慣れてるよ」



私は多美の手を離れて、十の胸に寄り掛かった。

尾根さんの黒い財布からは紙幣がこぼれて、記者の前に舞い落ちる。



「副社長、どういう事ですか」


「濱田さんとは、どういった関係……」



その先を封じるように、尾根さんはカメラを伏せた。



「今すぐ立ち去れ。今日のことは無しだ。一切書くなよ。少しでも話題に触れれば、今後のNEOプロダクションに対する全ての取材権を剥奪する」


「……」




辺りが素早く静まる。

深刻な状況を察知してか、若い記者たちは、己の欲望を抑え込み、自分たちの会社の立場を守るために、駐車場を去って行った。





< 194 / 218 >

この作品をシェア

pagetop