ファンレター
「羽田さん…」
座り込んだ肩に触れる声。
振り返りながら、流れる想い。
「十、私……。ごめん、いつも勝手で」
「もう慣れてるよ」
私は多美の手を離れて、十の胸に寄り掛かった。
尾根さんの黒い財布からは紙幣がこぼれて、記者の前に舞い落ちる。
「副社長、どういう事ですか」
「濱田さんとは、どういった関係……」
その先を封じるように、尾根さんはカメラを伏せた。
「今すぐ立ち去れ。今日のことは無しだ。一切書くなよ。少しでも話題に触れれば、今後のNEOプロダクションに対する全ての取材権を剥奪する」
「……」
辺りが素早く静まる。
深刻な状況を察知してか、若い記者たちは、己の欲望を抑え込み、自分たちの会社の立場を守るために、駐車場を去って行った。