ファンレター
「どういうつもりだ桂」
私達の足元を、枯れた冷たい風が駆け抜ける。
この出来事が、早く過去の事になればいいのに。
そう思わせるくらい、不安で、逃げたくて、先を見たくないような時間だった。
「やり方が最低だ。自分の得しか考えられない、感情無しだ。他の事務所に頭を下げて、頼み込んで、布施原さんを業界に戻した親父さんの方が人間ができてる」
「社長は自分の失敗を埋めてるだけだ。今さら布施原由起子を戻したって、何の得にもならん。引き受けた事務所も可哀想なもんだ」
私の肩に触れた十の手に力が入る。
十も怒ってるんだよね。
こんな人と一緒に、もう仕事なんてしたくないよね。
私はすぐ隣にある十の顔を見上げた。
強い眼差しで、冷静に状況を判断しようとしてる。
その様子は、私なんかよりずっと大人に見えた。
「あんたを信じてるサキもバカだ。利用されてるばかりじゃないか」
桂さんは濱田サキに目をやり、それからまたすぐに視線をそらした。
濱田サキは、顔を手で埋めつくし、ずっと下を向いてる。
あの気の強そうな、自信に満ちあふれてた人とは、別人のようだった。
「桂、おまえ俺を妬んでるのか。子供だな。バカバカしくて相手にならん」
「ふざけんなっ!」
「桂もうやめてよっ。…お願いだから、私達の事はほっといてよ…」
掴み掛かろうとした桂さんに、濱田サキの声がストップをかけた。