ファンレター
いつの間にか、鳥の声は虫の声に変わり、肌寒い風が私達を覆った。
「サキ、そいつの事など相手にするな。明日には業界から消えてるやつだ」
厳しい尾根さんの声。
桂さんの肩で、濱田サキが泣いてる。
「行くぞ、十」
そして尾根さんの言葉に、十は動かなかった。
尾根さんは少し考えてから手帳を開き、十に向かって声を上げる。
「まさかお前まで、地元に帰るとか訳のわからないことを言い出すんじゃないだろうな」
私は十にしがみついた。
「十、帰ろう。また昔みたいに一緒に学校通おう」
もう、きっとチャンスはない。
今、気持ちが伝わらなかったら、もう昔に戻れる確率は残されてないんだ。
どうすればうまく伝わるかわからないけど、私はただ必死に十を見つめ続けた。