ファンレター
長い長い沈黙の時間。
そして
「映画の話がある」
尾根さんのその言葉に、十は顔を上げた。
「滅多にない抜擢だ。年明け前には撮影が始まる。信じられるか、主役だぞ?お前の才能が認められたんだ。どんどん人気は上がる。多くの人間に期待されてるんだ」
映画……?
もう、十を信じるしかなかった。
私が何を言ったって、さらに上を行く内容で尾根さんは十に圧力をかけてくる。
「十、今だけの感情に惑わされずよく考えろよ。彼女の気持ちだって、わかってるだろ」
桂さんの呼び掛けにも、十は動かずじっと考えてた。
「辞めるのもいいでしょう。それが十、君の器だ。その子との一般的な地元での生活を望むなら、それでも構わない。私は新しい星を手に入れるだけだ」
尾根さんが、十に向かって歩いてくる。
十はまっすぐ尾根さんを見たまま、口を結んでた。
「さぁ、どうする」
十、お願い…
私は目を閉じた。
心臓がはじけそうなくらい、強く鼓動を刻む。
早く終わってほしい。
十と、ゆっくり時を過ごしたい。
こんなこと、もうイヤだよ…
やがて、流れが止まった。
長い停止時間。
思考も止まり、誰もが十の言葉を待つ。
鼓動が、耳の奥に響く。
ドクン、ドクン、ドクン…
「やらせてください」
「よく言った」
尾根さんが、十に右手を差し伸べた。