ファンレター
信じる気持ち
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信じる気持ち
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ブルースが流れるバー。
グラスに響く氷の音が、カウンターの上を行き来する。
一番端の席に上着をかけて、桂さんはマスターに手を上げた。
「えっと、オレンジ二つでいいかな。あ、三つで。…そう言えばオレ車だ」
手持ち無沙汰にメニューを探す。
大北さんの店とは違った、また一段上の未知の世界。
ブラウンな空気が漂う中で、私と多美だけが、まったく落ち着いていなかった。
「あんまりキョロキョロするなって」
桂さんはすっかり保護者。
「涼、さすがに今日は帰らないと私もまずいよ」
「うん、わかってる。ごめんね多美」
そうだ
家にも連絡してないし、家出人捜索願でも出されてたら大変だ。
「ねぇ多美、なんだかこの店もワクワクしちゃうね。そうだ!お土産何買って帰る?怒られる前に機嫌取らないと。でもせっかくだから、記念写真も撮って帰りたいよね~」
親への言い訳も考えておかなくちゃ。
あと、学校も……
私の声だけが、変に目立ってた。
「涼、こんなこと言うのおかしいけど、涼は残った方がいいんじゃないの?」
多美の視線と、さらに後ろから桂さんの視線。