ファンレター
「え…、だってさ、だってそんなのおかしいじゃん。十は芸能界を選んだんだし、私はもうここにいる必要無いよ。なんかただの追っ掛けでしたって事だよ。いい夢見させてもらっただけ。十のおかげで、桂さんとも友達になれたし。ホント、ぜーんぶいい思い出」
そうだよ。
十がどんどん人気者になって、そしたらあのメガネ高く売れるかな。
幼なじみって事も、みんなに自慢しよう。
もう昔の事だけど、一緒に学校通ってたって言っちゃおう。
家にもよく遊びに行ったし、もう昔の事だけど、手をつないで歩いたこともあるって。
もう昔の事だけど、喧嘩もしたし、もう昔の事だけど、十の優しかった所とか、もう……
もう、戻れないんだよね。
涼ちゃんて…、後ろから涼ちゃんて呼ぶ声は、もう聞こえないんだよね。
目の前が、ゆがむ宝石でいっぱいになる。
震える唇をヘの字にしたまま、私は声を押し止めた。