ファンレター




「泣けばいいのに。十くんの前で、泣けばよかったのに」


「そんなの…カッコ悪いもん」


「どうしてカッコつける必要があるのよ。バカじゃないの?」



グラスを口に運びながら、澄まして言う多美に腹が立った。



「…っ、多美は知らないじゃん!私と十がずっとどんな関係だったか。私は…、私はいつも十に威張ってたの。いつも十に命令ばっかりしてたの。ああしろこうしろって、十はいつも私の言う通りにしてた。
だから私が…、十を好きになるなんておかしかった。そんなこと、あるはずなかったんだもん。十が、私の言う通りにしてくれないなんて…
芸能界を選ぶなんて、そんなことあるわけないって、どこかで自信を持ってたのかも…しれないけど」


「都合のいい女だねぇ」


……っ



気がついてたけど、あらためて多美に言われると重く胸の奥に響いた。

ずっと、自分勝手な満足を追いかけてた。

今までの過去を消し去りたいくらい、自己嫌悪に落ちていった。





< 200 / 218 >

この作品をシェア

pagetop