ファンレター
「泣けばいいのに。十くんの前で、泣けばよかったのに」
「そんなの…カッコ悪いもん」
「どうしてカッコつける必要があるのよ。バカじゃないの?」
グラスを口に運びながら、澄まして言う多美に腹が立った。
「…っ、多美は知らないじゃん!私と十がずっとどんな関係だったか。私は…、私はいつも十に威張ってたの。いつも十に命令ばっかりしてたの。ああしろこうしろって、十はいつも私の言う通りにしてた。
だから私が…、十を好きになるなんておかしかった。そんなこと、あるはずなかったんだもん。十が、私の言う通りにしてくれないなんて…
芸能界を選ぶなんて、そんなことあるわけないって、どこかで自信を持ってたのかも…しれないけど」
「都合のいい女だねぇ」
……っ
気がついてたけど、あらためて多美に言われると重く胸の奥に響いた。
ずっと、自分勝手な満足を追いかけてた。
今までの過去を消し去りたいくらい、自己嫌悪に落ちていった。