ファンレター
シェイカーの音が、遠くに感じる。
目の前でマスターが見せるメジャーカップの曲芸にも、感情が反応しなかった。
「ごめんなさい。待たせてしまったわね」
声に振り返ると、暗い階段から布施原さんが姿を見せた。
どうしてこの人は、こんなに柔らかい表情をするんだろう。
過酷な道を、歩んできたはずなのに。
「わざわざお呼びしてすみません。彼女が、羽田涼さんです」
桂さんに紹介され立ち上がった私に、布施原さんはほんのり笑みを浮かべた。
「またお会いするんじゃないかって、思ってたわ」