ファンレター
私は雑誌に挟んであった桜の葉を、布施原さんの前に置いた。
時の香りを封じ込めた、とてもとても暖かいお守りだ。
「…私の恋は、なんだか半分終わったみたいな感じになっちゃったし、布施原さんが桜の木を気にしてらっしゃったので、もしかしたら懐かしく思っていただけるかと思って、持ってきたんですけど。
こんなことでお呼びしてすみません。なんか……、本当にこんなことで……」
自分で説明しておいて、不安になった。
こんなことで呼び出されたら、普通怒るよね。
肝心なことを言わなかったら、そんなくだらない考えで呼び出すなって、全然おじさんの気持ちが伝わらない。
でも、私は全てを知ってるわけじゃないし。
思い込みで余計なことも言えない。
布施原さんが葉を手に取り、それをひらひらと回転させた。
黄緑がかったオレンジ色が、スポットライトで美しく心を透かした。
そして…
静かに涙を落したのは、私だった。