ファンレター




私は雑誌に挟んであった桜の葉を、布施原さんの前に置いた。

時の香りを封じ込めた、とてもとても暖かいお守りだ。



「…私の恋は、なんだか半分終わったみたいな感じになっちゃったし、布施原さんが桜の木を気にしてらっしゃったので、もしかしたら懐かしく思っていただけるかと思って、持ってきたんですけど。
こんなことでお呼びしてすみません。なんか……、本当にこんなことで……」



自分で説明しておいて、不安になった。

こんなことで呼び出されたら、普通怒るよね。

肝心なことを言わなかったら、そんなくだらない考えで呼び出すなって、全然おじさんの気持ちが伝わらない。



でも、私は全てを知ってるわけじゃないし。

思い込みで余計なことも言えない。



布施原さんが葉を手に取り、それをひらひらと回転させた。

黄緑がかったオレンジ色が、スポットライトで美しく心を透かした。



そして…

静かに涙を落したのは、私だった。





< 203 / 218 >

この作品をシェア

pagetop