ファンレター



ルビー色の爪がキラキラ光って、グラスのまわりで弧を描く。

感情を吐き捨てた後、黙り込んでしまった私の変わりに、桂さんと多美が今日の出来事を布施原さんに伝えた。



十の前で気持ちを打ち明けたこと。

それでも十は、

芸能界を選んだこと。



思い出したくもない光景。

それなのに、布施原さんの口からは、思いもよらない言葉が出てきた。



「そう、よかったわね」


「え…?」



布施原さんが、私を見つめる。

真剣な表情に、ふざけてるのではと疑うことすらできなかった。

何が、良かったと言うんだろう。



「あなたを選んでくれた方が良かったの?自分の目標を途中で投げ出して、あなたのために戻って来てくれた方が、彼を素敵に思えた?」




身体が、前後に時を刻む。

ドキドキしてた。

思いもよらない、答えのせいで…



よかった……の?




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