ファンレター
あのアイドルショップで、半分無理矢理のように多美に買わされた十のうちわは、私の父の愛用品になってた。
「鷹宮さんとこの奥さんは、何も教えてくれんからなぁ。涼が言わなかったら、ずっと気づかないままだったよ」
十のCMが流れるたびに、画面に近付いてブツブツ同じことばかり言ってる父。
「早いうちに十ちゃんの彼女になっておくべきだったな、涼」
余計なことまで毎回一緒だ。
逃げるように自分の部屋に入った私は、机の引き出しから数種類の便せんを出した。
何色にしようか。
十の写真が小さく載っていた買ったばかりの雑誌から、占いのページを開く。
ラッキーカラーと同じ色の便せん。
十への手紙は、これで二回目だ。
『十、元気にしてる?』
そう書き始めた時だった。
「涼、涼!電話よっ!」
けたたましい声を出して母親が走ってきた。
部屋のドアを開けられるとほぼ同時に、私は机の上の便せんを隠した。