ファンレター
「涼ちゃん、久しぶりだねぇ」
頭に桜の花びらをのせて、本屋のおじさんが店の前をほうきで掃いてた。
今日は和兄とここで待ち合わせをしてる。
いろんなことを思い出してしまうからって、ずっと立ち寄ることを避けてたこの場所を、私達の待ち合わせの場に決めたのは多美だった。
それで毎回、今回で3度目になる今日のデートも、こうして桜の木の前に立ってるのだ。
また、この季節がやってきた。
「桜、今年も綺麗に咲いてるね。…おじさん、元気だった?」
「あぁ、涼ちゃんの顔が見えないから淋しかったけどなぁ」
私とおじさんの間に、花びらが何枚も通り抜ける。
今日は少し風が強い。
「涼ちゃんがここに来たということは…、もしかしてあの子が帰ってくるのかい?」
「涼ちゃん!」
おじさんの言葉に重なるように、和兄が私を呼びながら手を振って走って来た。
待ち合わせ時間ピッタリだ。
「そうかい…、それも仕方のないことだ」
和兄を見たおじさんの淋しそうな言葉に、まるでおじさんの気持ちまで裏切ったようで。
私の胸は打つことを忘れそうなくらい、固くなっていた。
「おじさん、違うから」
おじさんへの言い訳が、何にもならないことは分かってた。
ただ自分の気を休めるために、そう言った気がする。
おじさんは黙ってうなずいてた。