ファンレター
和兄はとてもやさしい人だった。
私に気を使ってたのかもしれないけど、子供のような純粋な心に加えて、大人びた気配りもよく見せてくれてた。
「どこか行きたい所ある?」
「ううん、とくに考えてないけど。和兄は?」
「それじゃあ今日は、ちょっといい所連れて行ってあげるね」
和兄が得意げに胸を張った。
「クスッ、うん」
「え、何?」
「ううん、多美と似てるなと思って」
「うそ、どこが?」
「なんでもない」
「えー……?」
困った和兄が、ちょっとかわいらしい。
「まあいいや。行こう!」
和兄が私の手をひく。
しっかり握られた手に、男らしさを感じた。
前向きで、どんどん私を引っ張ってくれて。
そうだ、私が思ってた男の人とは、こういうものだ。
路面電車に二十分くらい乗った。
シャワーに入ってきたばかりという感じの和兄の香りが、ふんわり漂ってくる。
和兄のやさしさと、よく合ってるようだった。