ファンレター



「十くん、今からカラオケとか行こうよ!プリクラも撮りたい!私ね、学校一の十くんファンなの。なんでも知ってるのよ。せっかく会ったんだしいろいろと……」


「いや、今日はもう帰るよ。明日行かないといけない所もあるし。それじゃあ羽田さん、あと多美さんと和哉さんだっけ。気をつけて帰ってくださいね。これからも応援よろしくお願いします」


「え~っ、それならカメラくらい持ち歩いてればよかったぁ。じゃあ、握手だけしてくれる?」



十に手を握られて、満足げな多美。

それから間を置かずに、十はその場から走り去った。



後ろ姿が小さくなるにつれて、込み上げてくる感情。



これは涙?

ひと吹きの強い風と同時に、大粒の雨が空から勢いよく落ちてきた。



「わっ!やっぱり持ってきてよかった。涼ちゃん、僕の傘に入って」



自分の傘に私を誘い、肩を抱き寄せる和哉。

別に、濡れてもよかった。

白いコンクリートが雨に黒く塗りつぶされていく様子を、私はぼやける景色の中でずっと見続けた。




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