ファンレター
泣くことも許されない気がして、ぼんやり過ごした夜。
朝、目が腫れなくてすんだことだけは救いだったけど、多分学校では、多美の自慢話が始まってるだろうと思うと
電車の時間になっても家を出る気にはならなかった。
「涼、休むの?」
何を聞くこともなく、それだけを言う母。
「ううん…今から行く」
昨日の夜、十の母親が帰り際に言った。
「涼ちゃん、十をよろしくね。あの子、涼ちゃんだけなのよ」
控えめな十の母親の重い言葉を前に、目を合わせられなかったことを今さらのように申し訳なく思う。
今日の帰りに、鷹宮の家に寄ろう。
私は大きな玄関扉を全身の力を使って押し開けた。
雨雫が残る葉を太陽が照らす。
まぶしい……
でも、まぶしいのは太陽のせいばかりじゃないのかもしれない。
「十……?」
「おはよう」
深くキャップをかぶった十が、つばの陰から優しい瞳を見せた。