ファンレター
「涼ちゃんは、彼氏とか作るつもりなの?」
「当然でしょ。それが私の一番の楽しみだもん」
高校生になったら、彼氏を作って、デートをして…。
そんな毎日にずっと憧れてた。
十はしばらく黙って。
そして、淋しそうな目で私のほっぺたをつねった。
「…わかったよ。でも、家に帰ってから話すのはいいだろ?他のやつらに見られてるわけでもないし、勘違いだってされないから」
「まぁ…」
私は軽く返事をした。
それくらいは許してもよかった。
親同士仲がいいから、昔からお互いの家を出入りすることはよくあったし。
宿題なんかも、中学までは一緒にやってたから。
「いいけど、私に彼氏ができたらやめてよね」
そう、そうなったら話は別。
絶対十と一緒になんて行動したくないんだから。
私が十のほっぺたをつねり返すと、十はその手を払いのけて、私の前を学校に向かって走って行った。
「涼ちゃん、学校までちゃんと気をつけて来てよ!」
振り返って手を振る十。
これで最高の高校生活が送れる、その時はそう思った。
よく晴れた四月の日。
桜が散って、十が私を「涼ちゃん」と最後に呼んだその日までは。