ファンレター



どれくらいの早さで走ったか。

晴れた時での15分は、雨の日なら確実に遅くなってる。



駅の屋根が見えてからも、そこから出ていく新幹線がないかを、必死で見張りながら走ってた。

桜の木の下を通り抜けて、駅の屋根に入ろうとする。

大きな時計が、針を動かす。



16時8分。

間に合った。



「十っ!十!」




人の目を気にすることもなく、私は大声で叫んでた。

何番のホームなのか、調べてる時間はない。

ただこうして呼び続ければ、気がついてくれるはずだと思った。



必死だった。

私はどうして、こんなにも一生懸命に十を探してるんだろう。

どんな想いで、ここに来たんだろう。



いろんなことが不思議で。

十のことなんて……

そんなはず、なかったのに。



「十ーっ!」



ずぶ濡れの人間が駅の中を走り回ってても、声をかけようとする人なんていなかった。

ううん、いないはずだった。



十以外の、たった一人を除いては。



「涼ちゃんっ」



突然腕を引っ張られて、足がぐらつく。



「…っ、和哉」




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