ファンレター




朝のにおいが、夏のにおいに変わった頃。

『青春BLUE』を片手で飲みながら、父が変な声を上げた。



「ほぇっ!やっちゃったなこりゃ。こうなると十ちゃんも、一人前やなぁ」



多美との約束の時間に遅れそうだった私には、父のいつもと変わらない十に対するコメントに耳を傾けている暇はなかった。

居間には寄らず、そのまま洗面台から玄関に向かって走った。



「行ってきますッ!」



玄関を出てから、妙に気になり出したのは事実だけど。



十…、何かあった?



でも、父の「一人前やなぁ」は、毎日のように出る言葉だからと、その時はすぐに忘れてしまったのだ。




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