ファンレター
陽射しが強くなる前に行動しようと、朝早くに待ち合わせした私と多美。
集合場所は、やっぱり桜の木。
本屋のおじさんも、開店準備を始めてた。
「おはよう涼ちゃん。休みなのに早いねぇ」
「うん、友達と待ち合わせ」
「桜の木でかい?」
「うん、そう。多美っていうんだけど、まだ来てないみたい」
おじさんは、フッとため息をついた。
「そうか…。関係ないことだけど…、いや、本当に若い涼ちゃん達には関係ないことだけどね。あの桜は昔「別れ桜」と呼ばれてたんだ。駅は旅立ちや別れを象徴するからね。花はきれいだけれど、縁起のいいものじゃないんだよ。だから待ち合わせには、使わない方がいい」
サワサワサワ…
蝉の声には、似合わない話だった。
時間がタイムスリップしたような、変な感覚に襲われた。
「涼、ごめん!」
走ってくる多美の声。
「…っじゃあ、おじさんまたね」
うなずくだけのおじさんから目をそらすと、そこには多美の真剣な目があった。
「スポーツ新聞、読んだ?」