ファンレター
開店と同時に入ったショップには、もう店員の声が飛び交ってた。
「私ね、涼に似合いそうな服、もう見つけてるんだ」
うれしそうに私の手を引っ張って、リードして行く多美。
「ねぇ、新聞て何?」
「そんなことは後でいいの。早く早く!」
相変わらず多美のペースだ。
でも店の奥に入ってくにつれて、次第に目が痛くなりそうな色が周りに広がってきた。
「多美…ちょっと派手じゃない?」
「東京じゃ目立たないって」
本気で東京で着ることを考えてるらしい。
「十くんの好きな色は、確か水色だったよね」
「よろしかったらご試着どうぞ」
お客をつかもうと、店員が周りをウロウロする。
「ハイ、勝手にやりますから」
多美は私の服選びに夢中になってた。
木のハンガーが、多美の手を行ったり来たり。
それがなんだかうれしくも思えた。
ちょっと頬が緩む。
「これどう?絶対十くんも気に入るから」
肩の露出が多い白い服と、水色が混ざった短いデニムスカートを出された時には、正直ギョッとしたけど
多美の満面の笑みに返すには、この言葉しかなかった。
「うん、すっごく気に入った」
着る機会は本当に訪れるのだろうか。
普段この街では、とても着れそうにないほど私には勇気のいるデザインだった。