ファンレター
小さな裏通りの喫茶店には、若い女の子たちがあふれてた。
ひんやりとした風が、少し強すぎる気もする。
「ねぇ多美、和哉くんのことだけど……」
言わなければいけないのに、なかなか言い出せなかった話。
多美のストローを持つ手が止まった。
「気にしないで。あれでも結構モテる人だから。すぐ次の人見つかると思うし」
いい気分はしないはずだ。
私は多美を真っ直ぐに見ることができなかった。
「そのかわり、絶対十くんと一緒になってよね」
小さくつぶやいてにっこり笑う多美に、一層申し訳なさが込み上げる。
「本当にごめん…」
「謝るなんて変なのー。だって別れなんて普通にあることじゃん」
ドクン…
私の頭の中に、一瞬『別れ桜』が浮かんだ。
あの木の前であった、十とのたくさんの出来事。
嫌な話を聞いた気がした。