ファンレター



「やっぱりあのラジオの話って、本当だったんだ…」



突然耳に入ってきた隣の客の言葉に、思わずドキッとした。

自分たちの会話が聞かれてたんだと思って焦ったけど、その先の話を聞けば、その対象が私たちではないことをイヤでも知らされた。

新聞を本棚に戻しながら店を出て行く女の人たち。



「前からあやしいとは思ってたけどさ。なんかショックよねー。濱田サキと鷹宮十が熱愛だなんて。全然一方通行じゃないじゃん」


「……!?」



グラスの中の氷が、音を立てて崩れる。

多美は黙って目を閉じた。



「……もしかして新聞て、このこと?」



うなずく多美。

私はカウンターに置かれた新聞の束から、スポーツ新聞を取り出した。



眩しい黄色で書かれた「熱愛」の文字。

その横には、濱田サキと鷹宮十の名前が並んでた。

もちろん濱田サキの名前は大きく、まだまだ売り出し中の十の名前は小さい。



その並んだ名前を見るだけで、胸にげんこつを押し当てられたような気持ちになった。

細かな字まで、読む気力がない。





< 79 / 218 >

この作品をシェア

pagetop