ファンレター
本当は、変にドキドキしてた。
思わず想像してしまったんだ。
十と、キスすることを。
自分自身で、なんてことを考えてるんだって焦りながらも、想像してしまったら、なかなか頭から消えてくれなくて。
もしかして、今私が考えてることを、誰かに心を読まれるみたいに知られたらどうしようとか。
そんな、訳の分からない妄想までしたりして。
こんなこと、有り得なかったのに。
もう私は、完璧に十ウイルスに感染してしまったみたいだ。
とにかく、十のことばかりが、頭から離れない。
「ちゃんとついて来いよー。全員いるかー」
かなり前の方から山口の声がした。
荷物を背負い直して、少し走る。
残暑が厳しい九月。
ビルの陰に入ると、涼しい風が駆け抜けた。