やまねこたち
ごとりと音がした。
あたしじゃない。他の誰かだ。
「…ふん、そうきたか」
あたしは顔を上げた。
目の前には、スーツを着た男2人が立っている。
こういうの、山猫に入ってから数回みたことある。
山猫の仕事を助ける存在でもあり、ライバルでもある。
かっちょよく言っちゃえば、SPってか?
「…来たな、殺し屋が」
あたしは2人が心底かわいそうになる。
今晩、婦人と一緒に眠る事になるなんて。とんだとばっちりだ。
2人はあたしを睨んだ。
そして、口を開く。
「…大人しく警察に行こうか」
「…警察?」
部屋を見渡した。女はいない。
いやでもきっと、この家のどこかに居るはずだ。
1階は隅々まで見たけど、居なかった。と言うことは2階のどこかだ。
まずいな、通報してなければいいけど。
あたしは床に倒れた2人を見下ろして、すぐに部屋をくまなく探す。
防弾チョッキを着ているその体は大きい。
それでも頭は無防備なのは、あたしと一緒。
豹が手に入れたサイレンサー、とても高性能だ。全く音がしない。
一旦部屋を出て、右の部屋に入る。
「わ」
頭にごつりと音がした。
「…なに、この小娘。こんなのが殺し屋だって言うの?私もなめられたもんね」
中年くらいの、上品そうな女が立っていた。
寝巻き姿ではない。
と言うことは、今晩はなから寝るつもりなんて無かったんだ。
しっかりしてよ、依頼人。勘付かれちゃってるじゃん。
そして、額に食い込むのは銃。
冷たさが冷え切ったからだに鞭を打つ。
「…諦めなさい。あんたは今日ここで死ぬんだから。若いのに、残念ね」
あたしは無言で女を見つめた。
「この家にはSPが居るの。きっともうすぐ、駆けつけるわ」
「…SP?」
あたしはとぼけた。絶対に逆転するチャンスはある。
「SPが居るの?」
「当たり前でしょう、あたしは厳重にするのが好きなの。でないとこの仕事なんてやってられないわ」
「…銃をおろしてよ」
「それはあなたに良いいいたいわ。銃を捨てなさい」
女に乞う。
最大限に哀しい顔をしてみた。
持っている銃を投げ捨てた。
ごり、と銃が額に押し付けられる。
そういえばついこの間も、蓮二にこんなことされたっけ。あれはマジで死ぬかと思った。
まさか、蓮二の気に入っていた酒を全部開けちゃったことで、あんなに怒られるなんて。
女は携帯電話を取り出した。
携帯といっても、カタチが特殊だ。
無線みたいなもの。さっきのSP会社のロゴが書いてあったから、あいつらを呼ぶための無線だな。
その操作の一瞬のすきに、あたしは後ろ手で太ももを触った。
もちろん、手に持っている武器は捨てた。
だけど身に着けている武器はまだたくさんある。
足の付け根に軍専用のベルトを巻いてある。もちろん、上手い具合に銃も隠し持って。
女が引き金を引く前に、股の隙間から女の上体を狙って撃った。
打ち所が悪かった。
温かいものが顔にかかる。
女はその場に崩れるようにして倒れた。まだ銃を持っていた手前、息はある。
今度はちゃんと銃を構えて、女の脳天をしっかり撃った。
ターゲットは死亡。
はじめてあんな体勢で撃った。股から後ろ手で打つなんてリスクありすぎる行為、山猫でもあたしだけなんだろうな。
銃を仕舞いながら、部屋に置いてあった鏡台で顔を見た。
丁度顔に血がかかっている。よかった、髪につかなくて。
手のひらで血を拭って、あたしは部屋を出た。