やまねこたち
「そんで蓮二に家まで連れて帰ってもらって、…」
そこであたしの口は止まった。
そうだ。あたし、今ここで安らかに眠っているクソ男に死ぬほど吐かせられたんだ。
不意にあの苦しさと怒りが込み上げてきた。
「…ホース口に突っ込まれて、さんっざん水飲まされて、吐いた」
「…誰に?」
「こいつだよ」
リビングの床で何も気にしていなさそうに寝ている蓮二を指差す。
「こいつ、容赦ねぇの!思い出すだけで腹が立つ!!」
「待って待って。どうやって吐いたの?自然に?」
「違う!こいつが口んなかに指つっこんで吐いたの」
カレンの顔色がさっと変わった。麻月は苦笑している。
「…それは、…まぁ。おつかれ…」
「カレン分かる?!相当気持ち悪ぃぞ!!」
「まぁまぁ、時間争ってたから、しかたないよ」
「麻月!人事みたいに言うけど…」
お気に入りの銃も駄目になったし。あぁ、また新調しないといけない。
あたしは一気に疲れが出てきた。
「まぁ、新しい薬開発に協力したってことで…」
「くっそー、どいつもこいつも軽く言いやがって」
麻月はあたしをあやすように、頭を撫でる。
睨んでやった。
「…警察にばれなきゃいいんだけど…」
つい本音が零れてしまった。
正直な話、暗殺までは上手く行ったとして、すぐにその場から離れないといけなかった。
実際なら早急に帰る予定だった。
しかし、今回は公園と言う近所の公共施設に行ってしまった手前、植木の中に隠れるなんて不審行為を近所の人間に見られたとでもしたら、犯人が特定されてしまう。
「艶子の初失態」
見上げると、麻月が笑っている。
かちんときた。
「…うるさい。大体、薬を飲んだのは事故であって、全部蓮二が悪いんだ!」
「直飲みしなければこんなことにならなかったって」
カレンも笑っている。
なんだかんだいって、1番年下のあたしがからかわれるんだ。面白くない。
あたしの経歴に汚点がついてしまった。
くそ、これから巻き返さないとこいつらにもっと馬鹿にされる。
「まぁまぁ、今日はゆっくりして、また次回がんばりなさいよ」
「言われなくてもそうする」
「可愛くない」
カレンは笑いながらそういった。
カーテンの隙間から、朝日が射している。
今日は珍しくみんなオフだ。パパは居ないけど。
酷い目にあった原因の蓮二にはむかつくけど、少なくともこいつのお陰で死なないですんだ。
仕事が最後までばれないかどうかは心配だけど、きっと大丈夫だ。みんなが居たらきっと大丈夫。
あたしは眠さに負けて、ゆっくり目を閉じた。