世界の終りで愛を歌う
ただ一つ心が痛むのが、
父が私が北大医学部に受かった時に喜んでくれた事だ。
父親の落胆する顔は見たくない。
特に会話のない親子だったが、
喧嘩もない。話はしないが、
嫌いではない。織田信長の子供達の事が思い出される。
彼等は私と似ている。
信長は子供達と数度しか会っていない。
生まれて二回目に会ったのが、
他家に嫁ぐ時や、婿に行く時だ。
その時に信長は立派に育ち自分の言う事を真剣に聞いている子供達を見て胸を熱くしたという。
「織田は歴史の犠牲となるのだ。その為にお前達を他家に行かせる。武田に浅井。織田は平等な世の中の為の牲耐えてくれ」
という話だ。だから、私も政略結婚となるかも知れない。
だが、それでもいい。
何故か父親は奔放主義だが、
嫌いにはなれないし、
恨んだ事もない。何より、
北海道にまで引っ越してくれたのだから。
仕方がないので、私は父親と同じ道を歩む事にした。
司法試験はいつでも取れる。
と言うか、医学の勉強だけで精一杯だろうから。
試験に受かる為には、
病気の名前や薬や、その病気の特徴を覚える作業の連続だ。
暗記ずけ。受験勉強の方が違う事も出来たし、
暗記が全てではないので楽しかった。
だが、私は思った。医者の試験に受かるのに最低2000時間が必要だ。
一年で受かる為には1日6時間から8時間が必要となる。
更に司法試験も合わせると5000時間が掛るかも知れない。
二足の草鞋は効率が悪そうだからだ。
同じ道をといっても司法試験は諦めた。
ある意味趣味の程度には法律の勉強をしていたが。